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『烈日 東京湾臨海署安積班』 [本]


烈日―東京湾臨海署安積班

烈日―東京湾臨海署安積班

  • 作者: 今野 敏
  • 出版社/メーカー: 角川春樹事務所
  • 発売日: 2010/09
  • メディア: 単行本



==強行犯第一係に新顔の水野が配属。美しくて仕事ができる、鑑識課出身の女性刑事だ。少々とまどいを覚える安積だったが、一緒に働きはじめるとすぐに、安積班の強力な戦力となることが明らかになってきた。安積班の面々と、彼らをめぐる人たちの強さ、優しさ、厳しさが一段と味わい深くなったシリーズ最新刊==

先日、テレビではシリーズ3が終了した『ハンチョウ 〜神南署安積班〜』の原作最新刊。私はテレビシリーズに先に出会い、慌てて原作を追いかけたクチの新人だ。今回はなんといっても目玉はこれだろう。

水野真帆、とうとう原作に登場!

安積班の紅一点、おしゃれなキレモノ刑事の水野は、テレビシリーズのオリジナルキャラクター。私は最初から彼女がお気に入りで、あまりにも普通に安積班に馴染んでいるので(…ってまあ当然だが)まさか原作にいないとは思わず、読んでみてびっくりしたのであった。原作者今野敏氏が彼女だけはあてがきしているとの話をどこかで読んだが、今野氏もあの水野がお気に召したのだね。役者冥利につきるだろうなあ、自分が原作に逆輸入されて登場するなんて。何気なくしっかりと表紙にもいる。

このシリーズの、ドラマと原作との絶妙なシンクロ率(68%くらいかな。根拠なし)が面白い。ある意味、理想的な展開じゃないだろうか。原作で安積がしばしば感じる潮の香りがよいのだが、ドラマの神南署では感じられないのだけが残念。原作の微妙な安積と村雨の関係が興味深い。須田の描写も好きだ。ドラマの須田ははまり役過ぎる!そして速水のずうずうしさを装った厚い信頼と思いやり。新聞記者山口の奮闘ぶりも見られますぞ。ずっと続いてほしいシリーズ。


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『音もなく少女は』 [本]


音もなく少女は (文春文庫)

音もなく少女は (文春文庫)

  • 作者: ボストン テラン
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2010/08/04
  • メディア: 文庫



==麻薬を売り、けちな盗みを働くろくでなしの亭主を持つクラリッサ。耳のきこえない娘イヴのために闘うクラリッサを支えたのがフランだった。
 ミミの父親もろくでなしだ。ミミを支える里親と義理の兄。イヴとフランもその輪に加わることとなる。穏やかで幸せなひととき。だが運命は容赦なく転がり続ける。うなだれて受け入れるのではなく、敢然と立ち向かう女たちの行く手に待っているのは==

不遇であること、ハンディを持つこと、悲しみに満たされていること。それらを運命と投げてしまわない、毅然とした姿勢、凛とした瞳を持つ女たちの物語。自分の弱さを隠すこともなく、でも諦めたり背を向けたりしない女たちの、世代を越えた愛情と連帯。彼女たちを取り巻く、ろくでもない男たちと素晴らしい男たち。全く無駄のない本文から立ち上がってくる、美しい信念を堪能。

本当は、頁をめくる手が止まらない、とか書きたいのだが、実は涙が出そうになったりあまりにも苦しくなって、わざと時間をかけて読んだ。圧倒的です。静けさに支配された物語で(主人公のひとりが聾者)、映像が浮かび上るような文章。訳も美しくて、本当に泣けてきます。読後、冒頭部を読み返して、緻密な構成と強いストーリーに改めて敬服。重厚な、でもうっとうしくない、稀有なバランスを持つ小説。忘れ難い力の漲る一作だ。



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『デス・コレクターズ』 [本]


デス・コレクターズ (文春文庫)

デス・コレクターズ (文春文庫)

  • 作者: ジャック カーリイ
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2006/12
  • メディア: 文庫



==30年前、死刑宣告を受けた法廷で死んだ被告。現在、今年の最優秀刑事として市長に表彰されたばかりの僕、カーソン・ライダーと相棒ハリーが、その死んだ被告の事件にかかわることになったのは、僕らが特命任務である精神病理・社会病理捜査班にいたからだ。そう、次々に起こる殺人事件は、明らかに異常なものだった。アーティストであった死んだ被告の作品が、鍵になるらしい。殺人鬼たちののこした品物を蒐集するコレクターの世界に手がかりを求める僕たちには、思いも寄らない真相が待ち受けていた…==

今頃読んですみません。手にするきっかけは、“翻訳ミステリ大賞シンジケート”だけれど、もちろん評判はきいていた。でもね、てっきりバカミスかと思って(1作目はその傾向が強いらしい、未読の『百番目の男』)なんとなく後回しにしていた。反省。

シリーズ2作目から読んでしまったわけだが、充分楽しめたと思っている。異常者(と美人)満載で嬉しかったし。実は丁度公私共に多忙な時期で、相当とぎれとぎれに読んだのだが、挫折しなかった。話が進むにつれ、巻き込まれるように夢中になれる。こんなに暑い夏は、首筋がひんやりとするような常軌を逸したミステリがいい。謎解きを楽しむにも、サスペンスフルな魅力も申し分ない、寝不足をお約束する一冊ですよ。

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『ツバメ号とアマゾン号』(改訳版) [本]


ツバメ号とアマゾン号(上) (岩波少年文庫 ランサム・サーガ)

ツバメ号とアマゾン号(上) (岩波少年文庫 ランサム・サーガ)

  • 作者: アーサー・ランサム
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2010/07/15
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



ツバメ号とアマゾン号(下) (岩波少年文庫 ランサム・サーガ)

ツバメ号とアマゾン号(下) (岩波少年文庫 ランサム・サーガ)

  • 作者: アーサー・ランサム
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2010/07/15
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


==待っていた電報の返事が来た!「オボレロノロマハノロマデナケレバオボレナイ」お父さんが、無人島でのキャンプを許可してくれたのだ。
 夏休みの何日かを農場で過ごしているウォーカー家の兄弟姉妹は、着いて早々、湖に浮かぶ島を発見し、本土ではなくそこで過ごしたくてたまらなくなった。子どもたちだけでやっていっていいかお父さんにお願いの手紙を書いて、毎日返事を待っていた、そのお許しの電報なのだった。赤ん坊のヴィッキイはお母さんとナースと農場に残るが、4人は小型帆船ツバメ号の船員として島へ渡ることになる。今夜は雇用契約書を作ったりキャンプの準備をしたり大忙しになるだろう。さあ、あの島には、湖には、この夏休みには何が待っているのだろう?敵か、それとも同盟を結べるほどの仲間か?冒険や大嵐か?==

ちらほらと噂があった改訳版、ついに刊行開始!5年生の頃に読み始めて以来(ちなみにそれ以前に何度か挫折していることが記録から判明。あらあら…)20代前半まではまさにのめりこんでいた、アーサー・ランサム全集。

 と思っていたのだが、改訳で読み返してみて、私はちっとも読み込んでなどいなかったのだと実感。忘れているだけではなくて、興味ないところをすっとばしていたのではないかと思う。でも、7つでもう末っ子ではないロジャが(ここのことろ、全集と少年文庫では文章が違う!と小学生の私は驚いたのだった。活字になったものは、印刷された時点で確定するものだとなんとなく思い込んでいたわけで、そうではないのだと気付くきっかけだったかもしれない)坂道を間切りながら駆け上がっていくオープニングからは、変わらぬ風が吹き上がってくるかのようだった。なつかしい、ならば思い出だけれど、すべてを飛び越えてそこに立っていたのだ。

 この作品の魅力を伝えるのは案外難しい。彼らの“ほんとうの生活”をごっこ遊び、という言い方で片付けたくはないし、実際キャンプしたり帆走したりするのには技術と経験が必要だ。リアルライフとの折り合いのつけ方も、見習いたいくらいである。原住民たち、すなわち母親をはじめとする近くのおとなたちも素敵。こういうお母さんになりたい。ジムおじの、自分が間違っていたことがはっきりしてからの、きっぱりとした行動も好きだ。「どんなことになろうとも、あの少年に今すぐあって、あやまちを正さなくてはならないのだ。」そう、こんな簡単そうなこと、大人が実行するのはすごく難しいものだ。

 大好きなナンシイの言葉遣いは、若干乱暴さが薄まっている。「おだまり、ばか。おなじことを何度もするんじゃないの」は「静かに、ばかね」、「消えてなくなれ、サミー」は「とっとと消えて、サミー」になっている。(と思う。ああ、1巻だけは少年文庫版で持っているのだが、いったいどこにしまいこんだのか出てこないのだ。全集版の残り11冊はでで〜んと並んでいるのに!)新訳のナンシイは、ちょっとお姉さんらしい感じが増したかな。前はペギイのことをほんとに下っ端の船員として扱っていたような気がする。
 神宮先生は、本当に愛情込めて改訳なさったのだなあとよくわかる。続きを、心から楽しみにしております。

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『バンガローの事件』 [本]


バンガローの事件―ナンシー・ドルー・ミステリ〈3〉 (創元推理文庫)

バンガローの事件―ナンシー・ドルー・ミステリ〈3〉 (創元推理文庫)

  • 作者: キャロリン キーン
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2008/04
  • メディア: 文庫



創元推理文庫のナンシー・ドルー・ミステリの3巻目(完訳の刊行が始まった嬉しい!と書いたのがすでに2年半前だという事実に愕然)。

==友人ヘレンとボートで楽しんでいるナンシーは、嵐に捕まってしまう。危ないところで二人を助けてくれたのはローラという少女。3人はたちまち意気投合。ローラは母親を亡くして、初対面の後見人を待っているところだった。しかし、やってきた夫婦者は粗暴で怪しげな印象。ローラはがっかりしてしまい、ナンシーはどうしても合点がいかないのだった。一方、ナンシーの自宅では、家政婦のハンナが怪我をしてしまう。父のドルー弁護士が事件に追われているのは相変わらず、ナンシーも協力していくが、次第に事件は意外な展開を始める……==

いやあ、今回のナンシー・ドルーはアクティヴで面白い!身体を張って調査するし、デート相手も登場(ものわかりよくて、しつこくない。ティーンエイジャーとしては理想的なのでは?でも印象に残らない恐れあり)、そしてナンシーはいつもTPOをわきまえた振るまいができる、独立した女性なのだ。格好いい!友人を大切にするけれども、群れたりしない。一人で食事ができる(しかもよく食べる!)。

実は、私が感心したところはみんなあとがきで坂本司さんが見事に讚えていらっしゃる。むむう、やはり格好いいところはみな見逃さないですね。それにしても、古くさい児童文学かと侮ることなかれ。永遠の18才ナンシー・ドルーは、見事なほど一人前の魅力的な女の子だ。

事件も、あれよあれよの展開に思わぬ繋がり、スリルたっぷりで後半どんどん加速します。読み終えて、嬉しくてにこにこしてしまった。

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『アナザー修学旅行』 [本]


アナザー修学旅行

アナザー修学旅行

  • 作者: 有沢 佳映
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2010/06/29
  • メディア: 単行本



==みんなは今頃新幹線の中。今日から三日間の修学旅行だ。でも私、脚を折ってしまって不参加。それぞれの事情で不参加の3年生六人は、三日間一つの教室で過ごす。口もきいたことないのに。…うっとうしく始まったこの不参加組代替授業が、こんな展開になるなんて、ほんと思いもしなかった、この朝は==

講談社児童文学新人賞受賞作。私は普段こういうのは読まないはず。なのに手に取ってしまったのは、タイトルといい表紙といい、何か醸すものがあったのも事実だが、帯がね!引用します。
    “もう、ぞくぞくするくらい中学生なわけ。話すことも、話す言葉も、話し方も、
     考え方も、行動も……ぜんぶ!   金原瑞人氏推薦!”
これは凄い惹句だよ。これで手にする人、けっこういるんじゃないかな。

それで、本当にいい味出しているのだこの本。距離感が絶品。無関心なわけじゃないけど、うっとうしがられたくない。いい人なんだなあと思うけど、まだ友達じゃない。数日で人生は変わらないってことくらい知ってる…、まあ、確かに劇的に変わることもあるのだろうけど、それは今じゃない。

人物設定が、普通じゃない人たちなので(超能力者だとかいう意味ではない)、そこが惜しいのだが。普通の人はドラマにならないってのは、違うと思うので。でも、そう奇をてらっているわけでもなくて、読んでいて誰でも、何か自分の中で甦ってくるものがあるはず。保健室に行くあたりから、ストーリーが加速して、心地よくてやめられなくなった。この作者、次はどんな作品を読ませてくれるのだろうか。

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『ペンギン・ハイウェイ』 [本]


ペンギン・ハイウェイ

ペンギン・ハイウェイ

  • 作者: 森見 登美彦
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2010/05/29
  • メディア: 単行本



==待望の新作、語り手は小学四年男子。しかも端正に賢く、大人よりもものを考えかつ知っている。しかももっともっと知りたいので、日々努力(ノートをとるし、たくさん本を読む)を怠らないというたいした人物なのである。そんな彼の、それなりに波乱万丈な日常(仲の良い、あるいはそうではない同級生たち、両親、知り合いのお姉さん、学校…)は、ある日突然本物の波乱万丈へとシフトする。きっかけは、どこからともなく突如現れたペンギンの群れだった==

小四男子!それはたびたび我が家にも出没する、あのやかましい生き物だ。語り手のアオヤマ君みたいな好ましい奴はいないな〜、残念。困った君のスズキ君やお仲間を彷彿とさせるのは沢山いるけど。アオヤマ君てば、ただのアタマデッカチ君なのかとおもいきや、芯の通ったたいした少年なのだ。プールでいたずらされたときの対処法にしびれました。素敵!

非日常を魅力的に描き出してくれている、と楽しんで読んでいったのだが、なんとラストでは胸をしめつけられるような想いまで。探検したり成長したり考えたり、小学生ってものすごく充実した毎日を送っているのだったなあと思い出した。我が家の小学生二人が晩御飯の頃になると眠くて眠くてハイテンションになるのも当然か。とても奇妙な、いい話。人工的な郊外住宅地のリアルな非日常。

それにしても、街のなかにペンギンとはなかなかシュールな画、と思っていたら、昨夜なんとなくつけていたテレビで南アフリカの街に住み着く野生ペンギンの話をしていて非常に驚いた。生け垣の下に、普通にペンギンが巣を作っているってのはちょっとすごい。
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『サラの鍵』 [本]


サラの鍵 (新潮クレスト・ブックス)

サラの鍵 (新潮クレスト・ブックス)

  • 作者: タチアナ・ド ロネ
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2010/05
  • メディア: 単行本



==ナチス占領下のパリ。「警察だ!あけろ!一緒にくるんだ、早く!」少女は、おびえて動かない4才の弟を、二人の秘密の場所にしていた納戸に隠し、鍵をかけた。もどってきたら出してあげる、絶対に。しかし少女が両親とともに連行されたのは、想像を絶する過酷な場所。もう何日たったのだろう。でももどって弟を出してあげなくちゃ。あの子を抱きしめてあげたい。なぜ、こんなことになったの?
 現在のパリ。記者のジュリアは“ヴェルディヴ”の記事を担当することになり、取材を始める。結婚して長年パリに住むアメリカ人のジュリアばかりではなく、周囲のフランス人も忘れかけているその事件とは、フランス警察がパリのユダヤ人を一斉検挙して競技場に押し込め放置し、あげくアウシュビッツへ行かせてガス室送りにした、というものだった。ナチスではなくてフランス警察が?競技場で獣のように扱われた悲惨な日々。事実を知るにつれ、ジュリアはこの件にのめり込んでいく。しかし、それがやがて家族や自分の人生までを変えることになるとは、まだ想像もできないのだった——==

普段の私が大喜びで手に取るような本ではないはずだ。なのにどうしたことか『波』で簡単な紹介を読んだ途端に、是が非でも読まなければならない今すぐに、と思い込んでしまったのだ。33カ国で出版、300万部超えのベストセラーで映画化決定、というのは後から知ったこと。訳者が高見浩さんなら間違いもないだろうし、と思ったことは憶えている。

説明のつかない残酷な現実。容赦ない時の流れ。思いもかけない悪意。自分が当事者で胸に黄色い星をつけさせられているかのように衝撃を受ける。自分の非力を思い知らされる。一方、現実のジュリアが夫との問題や家族のこと、思いがけず夫の親族を揺るがしてしまったことに動揺し、悩みながらも、本当のことを知りたい、少女のおもいに繋がりたいと前に進む姿は、読み手の心の支えになる。

冷静なまなざしが描き出す地獄絵図と醜さ、そして美しさと希望。頁をめくる手が止められず(数日睡眠不足になった)、読み終えた後もこの本のことは忘れられない。知らなかった、というのは言い訳にはならないのだ。


 
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『ぐるぐる猿と歌う鳥』 [本]


ぐるぐる猿と歌う鳥 (講談社ノベルス)

ぐるぐる猿と歌う鳥 (講談社ノベルス)

  • 作者: 加納 朋子
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2010/05/07
  • メディア: 新書



何故に聞き覚えがあるのかタイトルに、と思っていたら、かつて講談社ミステリーランドのために書かれた作品とのこと。ノベルス版が出たのだね。表紙を一目見ただけで大層心魅かれて、すでに好きになってしまう。もちろん、読後にじっくりと見直すともっと好きになります。

==父親の転勤で東京から北九州に引っ越してきた森(しん。これは名前の方で、フルネームは高見森)5年生。社宅で始まった新しい生活には、びっくりと謎がいっぱいだった。森自身の昔の記憶や、日々の暮らしから次第に感じ取ってしまった微妙なゆがみ。すべてが繋がったとき見えてくる真実に、あなたも言葉を失い、そして暖かなもので満たされるはず==

3つの短篇をモノローグが結びつける。このモノローグが実にきいている。ひなたのにおいがする記憶を呼び覚ましてくれる謎、そして守っていたものの大きさ、重さ。重量級の問題を含む作品なのだが、読後感はあくまでも爽やか。そこがよいところでもあり、いささかひっかかるところでもあるのだが、読み終えて時間が経ってからも忘れ難く甦るものがあるわけだから、やはり大丈夫なのだと思っている。深刻に声高に叫ぶことだけが、問題への向き合い方ではないのだ、おそらく。

夕方の風に、いつまでも吹かれていたくなるような作品。
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『1Q84』BOOK3 [本]


1Q84 BOOK 3

1Q84 BOOK 3

  • 作者: 村上春樹
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2010/04/16
  • メディア: 単行本


==身動きのとれないような孤独の奥から、闇を切り開くように這い上がってくる。青豆の指先に込められた力は何処へ?天吾の決心は実を結ぶのか?あなたの空の月は、今どのように見えますか?==

本当は、身辺をきちんと整理して、可能ならばBOOK1とBOOK2を読み返した上で当日に望みたかったのだ。でもおそらく無理だろうということはわかっていた。年度初めは多忙なものだ。現に、16日になってもまだ前の本を読んでいた。…でもそれはちょうどよかったみたい。どきどきしてしまい、しばらく机上にBOOK3を飾っておかなければならなかったので。手に取って、そのワールドに入り込む前に。

まず目次を開く。ああっ、誰これ?知らない人の名がある!落ち着けばそれは知らない人なんかではなくて、その風貌がざあっと甦ってきたのだが(しゃべりかたとかも)、視点が変わるんだ、と意外にも嬉しくも思った。

読み飛ばさないように、ゆっくり、時にはわざと本を置いたりして読み継ぐ。青豆は、村上ワールドの女性たちの中で一番好きかもしれない。んん、好き、というより共感できるのか。ますます大変な事態になっている彼女だが、揺るぎない視線がよい。

伏線が回収されきっていないとか、続編があるとかないとか、それはわりとどうでもよいこと。だって、リアルワールドにははじめと終わりってないし、辻褄の合わないことは山ほどある。私は今回の結末に満足している。それにしても、終わりのシーン近くで何故『ファイト・クラブ』の映像が思い起こされ続けたのだろうか。あの映画に月なんて映っていただろうか(全く思い出せない)。

登場する曲としてヤナーチェクが注目される小説だが、私にとっては『イッツ・オンリー・ア・ペイパー・ムーン』こそがテーマ曲。自分のもっているエラ・フィッツジェラルド版だ。しん、とした中に浮かぶ、おそろしいほど大きな月。それがこの小説のイメージ。今回は深い井戸ではなくて、夜空を見上げ続ける。時を置いて読み返す、また読み返す。今までの村上作品同様に、自分に根づくように。
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