『サラの鍵』 [本]
==ナチス占領下のパリ。「警察だ!あけろ!一緒にくるんだ、早く!」少女は、おびえて動かない4才の弟を、二人の秘密の場所にしていた納戸に隠し、鍵をかけた。もどってきたら出してあげる、絶対に。しかし少女が両親とともに連行されたのは、想像を絶する過酷な場所。もう何日たったのだろう。でももどって弟を出してあげなくちゃ。あの子を抱きしめてあげたい。なぜ、こんなことになったの?
現在のパリ。記者のジュリアは“ヴェルディヴ”の記事を担当することになり、取材を始める。結婚して長年パリに住むアメリカ人のジュリアばかりではなく、周囲のフランス人も忘れかけているその事件とは、フランス警察がパリのユダヤ人を一斉検挙して競技場に押し込め放置し、あげくアウシュビッツへ行かせてガス室送りにした、というものだった。ナチスではなくてフランス警察が?競技場で獣のように扱われた悲惨な日々。事実を知るにつれ、ジュリアはこの件にのめり込んでいく。しかし、それがやがて家族や自分の人生までを変えることになるとは、まだ想像もできないのだった——==
普段の私が大喜びで手に取るような本ではないはずだ。なのにどうしたことか『波』で簡単な紹介を読んだ途端に、是が非でも読まなければならない今すぐに、と思い込んでしまったのだ。33カ国で出版、300万部超えのベストセラーで映画化決定、というのは後から知ったこと。訳者が高見浩さんなら間違いもないだろうし、と思ったことは憶えている。
説明のつかない残酷な現実。容赦ない時の流れ。思いもかけない悪意。自分が当事者で胸に黄色い星をつけさせられているかのように衝撃を受ける。自分の非力を思い知らされる。一方、現実のジュリアが夫との問題や家族のこと、思いがけず夫の親族を揺るがしてしまったことに動揺し、悩みながらも、本当のことを知りたい、少女のおもいに繋がりたいと前に進む姿は、読み手の心の支えになる。
冷静なまなざしが描き出す地獄絵図と醜さ、そして美しさと希望。頁をめくる手が止められず(数日睡眠不足になった)、読み終えた後もこの本のことは忘れられない。知らなかった、というのは言い訳にはならないのだ。
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