『音もなく少女は』 [本]
==麻薬を売り、けちな盗みを働くろくでなしの亭主を持つクラリッサ。耳のきこえない娘イヴのために闘うクラリッサを支えたのがフランだった。
ミミの父親もろくでなしだ。ミミを支える里親と義理の兄。イヴとフランもその輪に加わることとなる。穏やかで幸せなひととき。だが運命は容赦なく転がり続ける。うなだれて受け入れるのではなく、敢然と立ち向かう女たちの行く手に待っているのは==
不遇であること、ハンディを持つこと、悲しみに満たされていること。それらを運命と投げてしまわない、毅然とした姿勢、凛とした瞳を持つ女たちの物語。自分の弱さを隠すこともなく、でも諦めたり背を向けたりしない女たちの、世代を越えた愛情と連帯。彼女たちを取り巻く、ろくでもない男たちと素晴らしい男たち。全く無駄のない本文から立ち上がってくる、美しい信念を堪能。
本当は、頁をめくる手が止まらない、とか書きたいのだが、実は涙が出そうになったりあまりにも苦しくなって、わざと時間をかけて読んだ。圧倒的です。静けさに支配された物語で(主人公のひとりが聾者)、映像が浮かび上るような文章。訳も美しくて、本当に泣けてきます。読後、冒頭部を読み返して、緻密な構成と強いストーリーに改めて敬服。重厚な、でもうっとうしくない、稀有なバランスを持つ小説。忘れ難い力の漲る一作だ。
コメント 0