『慢性拳闘症』 [本]
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「今度、丹下段平やるんですよね?」
福山雅治にそう訊かれた時、私は知らなかった。私だけが、知らなかった—。
凄まじいまでの役作りで知られる演技派、香川照之。彼はまた、無類のボクシングマニア
でもある。そんな彼が、そして監督が、スタッフが、役者が、全身全霊を込めて闘った記
録。実写版『あしたのジョー』撮影日誌であり、重篤なる“慢性拳闘症”を患うと自覚した
筆者のボクシング愛の記録、そして生きることへの熱い想いがみっしりと詰まった一冊。
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読みながら何度も何度も、巻末の筆者の顔写真と表紙の“段平”とを見比べていた。とにかく、今回の映画のビジュアルを初めて見た時から、この段平にはやられていたのだ。だってこれ、ありえないですよね?そのまんまだし(そのとことんまで“似せる”ビジュアル作りへの葛藤なども記されている。興味深い)。
年代からすれば『あしたのジョー』世代ど真ん中よりちょっと遅れ目である私だが、実はほとんど知らないで過ごしてしまった。原作を読んだのは十数年前、すっかり大人になってからである(ものすごく面白かった)。それにボクシングに特別愛着を感じたりもしていない。今のところ。
だがこの本、あまりに面白くて興奮しながら一気に読んでしまった。映画館にきっと行かなくちゃ。全く無縁の世界の人間をも引き込む情熱が、行間から噴出。そもそも香川氏の本には、いつも興奮させられる。『日本魅録』『中国魅録』いずれものめり込むように読んだ。情熱のある人の勝ちだなあと、つくづく思う。かかわる人々皆が、これだけの情熱を注いで作る作品を、きちんと観に行って自分の力で受けとめていきたい。受けとめる力を持っていたい。
読み手を意識しつつも、ボクシングについて思いの丈を書きつらねずにはいられない香川氏。一緒に映画をつくる仲間たちへの期待、信頼。役をつくり、撮影が進み、何かがはじけとんで“真実”に近づく瞬間。周囲の人々からもらう力。なによりこの“病”を再自覚し、より深く生きる意味をつかむ道のりを読み手は追体験する。パワーが湧きます。
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